ヘルシーメイツ平成13 年11 月第81号より 足のむくみを解消するストッキング 弾力性ストッキングの優れた機能を知る 星野 俊一
福島県立医科大学名誉教授
特定医療法人福島厚生会理事長
医学博士 星野 俊一
立ち仕事や座ったままの作業を長時間すると、足がむくんで履いていた靴がきつくなったり、足がだるくなったりした経験は誰にでもあるのでは。
それが慢性化してお悩みの方も多いはず。最近ではエコノミークラス症候群と呼ばれる血栓障害から命を落とす事例も報告されています。
今回は、足のむくみや疲れ、血栓障害の予防に効果を発揮する注目の「弾力性ストッキング」の機能を心臓・血管病の 権威・星野俊一先生にお聞きしました。
ふくらはぎは「第2の心臓」
心臓から力強く押し出された血液は,「動脈」を通って頭のてっぺんから足の先まで酸素を供給するために駆け回ります。
一方復路では、「静脈」を通って炭酸ガスを肺まで運ぶために、足先までいった血液は重力に逆らって心臓まで昇ってこなくてはなりません。
この血液循環の原動力として動脈に対しては「心臓のポンプ作用」が毎分60~120回も行われますが、静脈までは及びません。
ではどうして静脈は重力に逆らって心臓まで戻ることができるのでしょう?
それは人体の驚くべきメカニズムにあります。歩いたり、走ったりして足首を動かすたびに、主にふくらはぎの筋肉が収縮して「足の筋のポンプ作用」が起ります。その力で血液が押し出され、心臓まで戻っていくのです。これを「第2の心臓」と呼んでいます。
運動していないときは、呼吸運動が肺が膨張・収縮することで生じる「吸い上げ効果」が働きます。ふだんは両方が機能しています。
さらに、足の静脈には数多くの静脈弁があり、一歩の歩行や1回の呼吸によって心臓方向に昇っていった血液が重力によって下ってくるのをやめる働きをしています。「第2の心臓」のパワーは肺の「吸い上げ機能」よりも強力ですから、足を動かすことで血行が良くなります。 ウォーキングやジョギングが健康に良いとされる理由のひとつとなっているのです
足がむくむ2つの原因
足がむくんだり、腫れたりする原因のひとつは、血液の復路である静脈に炎症が起き、そこに血液の塊ができて血管がつまってしまうためです(深部静脈血栓症)。静脈には深部静脈と表在静脈の2つの系統があり、血液がまったく流れなくなってしまうということはありませんが、太い静脈がつまるとむくみはいっそう強くなります。
もうひとつの原因は、「弁」の故障です。足の静脈のところどころにある「弁」は薄くしなやかな2枚の弁葉からできています。これが炎症によって縮んだり、破壊されたりすると、そこから血液が逆流し、血液がつまったのとおなじ状態になってしまうのです。
これが進行すると,足の静脈が太く浮き上がってくる静脈瘤となってしまいます。
手軽にできる改善方法
一番いい方法は,まず長時間立ったり、座ったままの姿勢で過ごさないことです.しかし、実際には難しい人もいるでしょう。
そのような人は休憩時間などに大きく深呼吸することで「吸い上げ効果」を、踵の上げ下げを繰り返す体操で「第2の心臓」の働きを助けてあげるのが効果的です。また夜寝る時や休憩時間に少し行儀が悪くても、足を高くして横になることをお勧めします。
医療現場でも欠かせないストッキング
こういったこともなかなかできない人には、弾力性ストッキングという血流を改善・促進する機能を持ったストッキングがあります。
自分にあったものを使用することで,極めて合理的に血流の停滞を少なくさせる方法です。
ストッキングの外側からの適度な圧力は「第2の心臓」の働きを促進し,静脈弁からの逆流防止にも効果を発揮します。このストッキングは医療の現場では主に静脈瘤の治療に使います。軽症の場合はこれだけで治癒するケースもあり、硬化療法(硬化剤を直接静脈瘤に注入する)や外科療法には欠かせないものです。
一般的な使用については20ミリHg程度の圧力で十分です。むくみの程度が強い場合や,静脈瘤の治療にはもっと強いものを使用しますが、医師との相談が必要になります。
楽しい旅行を続けるために
近年、エコノミークラス症候群と呼ばれる血栓障害が報告されていますが、飛行機ばかりではなく長距離のドライブやバス、電車での旅行でも起ることが分かってきました。 弾力性ストッキングは,足に適度な圧力をかけ、血液が循環しやすい環境をつくることから、このエコノミークラス症候群の有効な予防手段ともなっています。もちろん楽しい旅行を続けるために、足の運動やマッサージ、深呼吸を心掛け、適度な水分補給も重要なポイントです。ただし、アルコールはほどほどにしましょう。
このように弾力性ストッキングは、履いているだけで足のむくみや疲れを解消し、恐ろしい血栓障害からも守ってくれる優しい機能性ストッキングなのです。
星野 俊一(ほしの しゅんいち) 医学博士。
福島県立医科大学名誉教授、特定医療法人福島厚生会理事長を勤める一方、福島第一病院心臓血管病センターで医療や訪問看護、介護支援まで幅広い活動を精力的に行う。日本静脈学会の会長も兼務し、国際学会での活動も注目される。